そうJRAの馬券である。
何を隠そう、わたくしは生粋の競馬ファンである。
高校を卒業と同時にその世界へ入り込んで、まだ抜け出せない。
いや自ら奥へ奥へと進んでいるのである。
今日は宣伝でもよく耳にする、皐月賞の日であった。
そして今日は給料日前日でもある。 明日になれば小遣いが入る。
わたくしは財布にある今月残りの小遣いの残りを全部勝負して、何倍にもしてやろうと、鼻息荒く、競馬場に向かった。
今日の金運の占いは4位だったが、直感が冴えるとお告げがあったので、ますますその気になり、鼻息が二倍に荒くなった。
競馬場にある、いつも行く三階のレストランで、1200円も叩いて、カツカレーとアイスコーヒーを注文し、優雅に予想を始めた。
自信があったのだろう。
いつもは吉野家で安い牛丼などを食べてから、ドキドキして競馬場入りして、レストランでは、コーヒーだけを注文するのだが、この日は太っ腹だった。
予想をしていると、お爺さんが足をガクガクさせながら、乳母車のようなものを押してレストランに入ってきた。
常連さんなのであろうか、よくそんな足取りで、広い阪神競馬場の三階までやって来たものだと感心していると、わたくしの隣の席に強引に乳母車を押し付けて入ってきた。
レストランはガラガラだったのだが、どうしてもそこに座りたかったのか、定位置だったのか、分からないが、乳母車を置くスペースに困っている感じであったので、わたくしは席を移動した。
お爺さんは座りたい席を凝視していて、わたくしが移動したのも気がついてない様子であった。
余程、その席に思い入れがあるのであろう。
わたくしは移った席で順調に予想を進め、最後の追い込みにとりかかった。
その時、斜め後ろのおじさんが、なんやら叫んでいる。
ビールのおかわりをしたく、店員を呼び付けている様であった。
が…このレストランは食券購入のシステムである。
店員も苦笑いしていたが、かしこまりました!とお金を受け取り、ビールを持ってきた。
5分ほどすると、また何やら叫びだした。
今度はオツマミを注文したいみたいだった。
さすがに店員も困りましたねという表情で、渋々と注文品を運んでいた。
しかし二度あることは三度ある。
また5分くらいしたら、また何やら叫びだした。
ふと周りを見渡すと、店員が一人もいない。
いくらガラガラだとは言え、一人もいないのは、明らかに無視している感じであった。
おじさんも頑張って叫んでいたが、痺れを切らしたのか、立ち上がって、厨房の方まで行き、店員を呼び出し、自分の席まで連れていって注文していた。
おじさん… 歩けるなら、食券買ったほうが、早いのでは…。
きっとビールを飲んで、酔ってしまったから、始めに食券を購入したことを忘れてしまっていたのだろう…。
などと気が散ってしまい、あっという間に締め切りの時間になってしまい、多少悔いの残る予想になってしまった。
気がつくとおじさんはもういない。
あわてて馬券を買い、レースを見た。
結果はこの馬券の通りである。
しかし競馬ファンの方ならお分かりになるでしょう。
この馬券がいかに勇気ある馬券かが…
帰りの人混みで、悔しさのあまり、あのおじさんは、わたくしの集中力を反らすための、JRAの回し者だったのかも…とある訳無い事を考えて、責任転嫁をして、悔しさを間際らそうとした。
と、横を見ると、あの乳母車のお爺さんが、人混みの中、足をガクガクさせながらも、悠々と進んでいた。
わたくしは目を奪われた。
かっこいいな。
人のせいにしようとした、自分が小さく見えて恥ずかしかった。
このお爺さんは、誰の力も借りず、一人で自分の楽しみを続けているのだろう。
負けても勝っても楽しみは自分の中にあるのだ。
そう語っているような横顔だった。
俺もなりたい。
今日は良い一日であった。
しかし次は勝ちたいです!
J
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